カルカッタのチャイ屋さん/堀江敏樹
おいしそうなタイトルに惹かれ、図書館で借りてみました。
カルカッタに無数に点在するチャイ屋(茶店)をティー・スペシャリストの著者はたずね歩く。
チャイ一筋のチャイ屋のおやじと客たちの、1杯1ルピー(3円)の紅茶から見えてくる、もうひとつの紅茶の世界に案内する。
チャイ!チャイ!!チャイ!!!
うだるような暑さのなか、あたりに漂う甘いスパイスの香り…。
冬に逆戻りしたかのような寒い夜にうっとりしながら読みました。
老いも若きも、近所の人も外国人も、みんな同じ1杯1ルピー。
セルフサービスの牛乳販売所、
飲み終わったあとのポイ捨て前提で作られる、土でできたクリ(カップ)、
チャイ屋の道具のアルミ製品はひとつひとつに値段があるわけではなく、秤に乗せて目方で売る計り売り。
物心ついたときから自動販売機に缶やペットボトルのお茶があたりまえにあったので、異国の文化が新鮮に映ります。
昔からお茶にまつわる光景に思い入れがありました。
主人とつきあい始めたばかりのころにデートでいただいたアップルパイとあたたかな紅茶。
冬の散歩の途中、立ち寄ったお地蔵さんの店(店先に赤い前掛けのお地蔵さんがいるんです)で、『絵描きの植田さん/いしいしんじ』を夢中になって読みながら飲んだロイヤルミルクティ。
子どものころ、真夏に母と買い物に行った帰り、涼を求めて入った台湾茶藝館で初めて口にしたタピオカミルクティ。
あれもこれも次々に浮かんできます。
行ったことのない遠い国のお話が、過ぎていった時間を連れてきてくれるようでした。
著者の紅茶を通して見る日本のあり方にも考えさせられるものがありました。
気合を入れる朝の時間、ひと息つく夕暮れどき、のんびり静かな真夜中に、
一杯のお茶を楽しむゆとりを大切にしたいと思いました。